アウディ Q4 e-tron▲これまでより手の届きやすい価格設定によって、アウディ製BEVモデルの販売の中心となるだろうコンパクトSUV。EV専用プラットフォームの採用で、上位モデルに匹敵する室内スペースを実現した。1基のモーターで後輪を駆動させ、ライバルを凌ぐ576kmという航続距離も備える

BEVらしいレスポンスの良さとスムーズな加速

日本におけるアウディのBEV(電気自動車)第3弾となるQ4 e-tron/Q4 スポーツバック e-tronが発売された。

アウディのBEVは、2020年に発売されたSUVのe-tron/e-tron スポーツバックを皮切りに、4シータースポーツモデルのe-tron GT/RS e-tron GTというラインナップだったが、いずれも車両価格1000万円オーバーの価格帯にあり、誰もが手を出せるというものではなかった。

このQ4 e-tronは、全長4590mm、全幅1865mmと比較的コンパクトなサイズのSUVで、かつスタートプライスを599万円~、と600万円を切る価格設定としたことが大きなポイント。アウディのドイツ本社はいま、2026年以降に登場する全モデルをBEVに、内燃エンジンの製造は2033年までに終了する、という電動化戦略「Vorsprung 2030」を掲げているが、Q4 e-tronは、日本においても電動化を促進する期待のモデルというわけだ。
 

アウディ Q4 e-tron▲ボディ右側に充電口を設置。アドバンスとS lineには、4種類のデザインパターンが選択できるデジタルデイタイムランニングライトを採用する
アウディ Q4 e-tron▲空力性能にも注力しており、写真のQ4 e-tronのCd値は0.28(スポーツバックは0.26)

エクステリアはQ4 e-tronがオーソドックスなSUVスタイル、スポーツバックが少し背の低いクーペスタイルとなっている。全長、全幅は両者共通。全高はグレードによって異なるが、スポーツバックの方が15mmまたは30mm低くなっている。

アウディの象徴であるフロントのシングルフレームグリルは、Qファミリー(SUVモデル)に共通するオクタゴン(8角形)形状のもの。内側は凹凸にデザインされているが、BEVなので実際には開口部はない。前後のフェンダーは筋肉質なもので、とくにリアはテールにかけて力強いラインが刻まれているのが特徴だ。

プラットフォームは、フォルクスワーゲングループによるBEV専用設計の「MEB(Modular electric drive matrix)」を採用する。前後のオーバーハングを切りつめ、総容量82kWh(実容量77kWh)の駆動用バッテリーを、前後アクスル間の床下に搭載。ホイールベースは2765mmと、Q3(2680mm)よりも長く、室内長はワンサイズ上のQ5を凌ぐため、後席に座っても膝まわりなどは想像以上にゆったりとしている。またMEBを採用した効果は、収納スペースの確保にも表れており、室内ではセンターコンソールの下やカップホルダー、ドリンクホルダーなど合計24.8Lを、ラゲージスペースは520L(スポーツバックは535L)を確保する。ちなみにQ5のラゲージスペースは550 Lだ。

インテリアは、センタークラスターをドライバーに向けて傾斜したドライバーオリエンテッドなデザインを採用。メーターには10.25 インチのアウディバーチャルコックピットを、センターには11.6インチの MMIタッチディスプレイを配置。ステアリングホイールは、アウディ初という上下ともにフラットな形状となっている。シフトセレクターは、e-tron GTなどと同様の、コンパクトな四角いボタンを指先で前後にスライドする方式を採用。素早く直感的な操作が可能だ。

パワートレインは、リアアクスルに1基の電気モーターを搭載し、後輪を駆動する。アウディといえばクワトロ(四輪駆動)かFFが主体であり、RWDはR8の2WDバージョンを除けば、初の量産モデルかもしれない。駆動用電気モーターは最高出力204ps、最大トルク310N・m を発揮。一充電走行距離は576km(WLTCモード)と、同じプラットフォームを採用するフォルクスワーゲン ID.4(561km)や、競合となるメルセデス・ベンツ EQA(555km)、ボルボ C40(502km)などを凌ぐ。
 

アウディ Q4 e-tron▲スタートボタンが備わるものの、ブレーキペダルを踏むだけでイグニッションはオンとなる。停車時もサイドブレーキボタンを押してからブレーキペダルから足を離せばオフになる

走りだしてすぐにBEVゆえの静粛性の高さ、レスポンスの良さ、加速のスムーズさが伝わってくる。アクセルペダルを少し強めに踏み込んでも乱暴に加速するようなことはない。そのあたりはRWDゆえにより慎重にチューニングされているだろう。試乗車はベースモデルだったので、19インチタイヤ+標準サスペンションの組み合わせ。乗り心地はソフトだが、重心高が低いこともあって、路面からの大きな入力に対する揺れもすぐに収まる。今回は未試乗だが、S lineを選択すれば、20インチタイヤ+スポーツサスペンションの組合わせになるので、より俊敏なハンドリングを味わえるはずだ。ただ、ベースモデルであっても、ハンドリングは素直だし、コーナリング中の姿勢は終始安定している。前後重量配分はほぼ均等な48:52を実現。かつRWDならではの運転の楽しさにあらためて気づく。

走行中の回生ブレーキの強さは、ステアリング裏側に備わるパドルシフトで4段階の調整が可能。また、アウディ初というBモードを備えているため、DからBへとシフトすれば、最大レベルの回生ブレーキが得られるので、走行中はいわゆるワンペダルに近いドライブ感覚が味わえる。ただし、完全停止はしないので、最終的にはドライバーがブレーキペダルを踏む必要がある。このあたりはドイツメーカーによく見られる、最後はドライバーの意志で操作を、というメッセージの表れるだろう。

2022年第1四半期のEU26カ国の新車販売(欧州自動車工業会調べ)に占めるBEVの割合は10%。一方で日本は2021年まで1%未満。しかし、2022年は軽自動車の日産 サクラ/三菱 eK クロス EVで一気にシェアを拡大。そして輸入車でもフォルクスワーゲン ID.4やこのアウディ Q4 e-tronなど価格も性能も魅力的なモデルが次々と登場しており、BEV拡大の波は、日本にも着実に広がっていきそうだ。
 

アウディ Q4 e-tron▲フロントにはスポーツシートを標準装備する
アウディ Q4 e-tron▲フラットな床面の室内空間は、同クラスのガソリンモデルより広い
アウディ Q4 e-tron▲ラゲージ容量は5名乗車時で520L(スポーツバックは535L)。後席を倒せば最大1490L(スポーツバックは1460L)まで拡大
アウディ Q4 e-tron▲クーペスタイルが人気のスポーツバック(写真)もラインナップ
文/藤野太一 写真/河野敦樹、アウディ ジャパン

ライバルのメルセデス・ベンツ EQAの中古車市場は?

メルセデス・ベンツ EQA

コンパクトSUVのGLAをベースとするBEV。フロントアクスル間に最高出力190ps/最大トルク385N・mのモーターを搭載するFWDとなる。内外装はEQシリーズ独自のデザイン言語を用いることで、ガソリンモデルとの差別化が図られている。全長4465mmのコンパクトなボディに66.5kWhのバッテリーを搭載しているため、後席部の床面がGLAよりわずかに高くなっている。

2023年1月時点で、中古車市場には35台ほどが流通しており、平均価格は718万円。ほとんどの物件がパッケージオプションのAMGラインを備えている。AMGパーツやローズゴールドのホイールなど、装備充実の日本導入記念特別仕様「エディション1」もわずかだが流通している。
 

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文/編集部、写真/メルセデス・ベンツ日本