【試乗】新型 メルセデス・ベンツ EQE|軽快な走りと高い静粛性、普段使いに最適な“電動”高級セダン
カテゴリー: メルセデス・ベンツの試乗レポート
タグ: メルセデス・ベンツ / セダン / EQE / EDGEが効いている / 西川淳
2023/02/20
仕立ても走りも実に“Eクラス”らしい
EQE 350+を試乗し終えての感想はこうだった。「真剣に購入することを検討するに値する大型実用サルーン」。エンジンか電気モーターか、ではなく、日常使用に最適な高級セダンとして候補に挙げたいモデルというわけだ。
ひとクラス上の電動専用モデルEQSに試乗して以来、メルセデス・ベンツはBEVの世界でも以前のように“よきお手本(スタンダード)になった”と感じていた。さすがはSクラスというセグメントリーダー的なモデルを輩出し続けてきたブランドである。フル電動の世界でもその立ち位置を堅持したのだ。
それゆえ、EQEにも期待はたっぷりで、きっとミニEQS的な出来栄えなのだろうと想像していたのだ。そんな大きな期待をいい意味で裏切ってくれたのだから、やっぱりサスガである。結論から言うと、EQSとEQEは確かに似ている点も多いが、それ以上に乗った印象はICE(内燃機関)のSクラスとEクラスくらい違っていた、のだった。
EQSとEQE。スタイリングは“そっくり”だ。特に、前からの景色で瞬時に見分けるためにはもう少し時間が必要だろう。とは言っても、メルセデスに限らずジャーマンプレミアムサルーンは昔から大中小とよく似た顔つきのモデルを作ってきたのだから、今さら文句を言ってもしょうがない。これは伝統作法のようなものだ。
もっとも真横から見てみれば、伸びやかなワンモーションフォルムを描くEQSとは違って、EQEにはリアセクションにどん詰まり感がある。急に行き止まりになったかのようだ。トランクフードもコンベンショナルな独立式で、EQSのようにハッチゲートを採用することはなかった。
全長こそ5m以内、要するに伝統的なEクラスのサイズに収まってはいるものの、幅はほとんど2mにも及んでいる。ホイールベースに至っては堂々の3m超え、EQSに比べてわずかに90mm短いのみだ。その恩恵はこのセグメントにはあり得ないリアの居住性となって現れた。専用電動プラットフォーム「EVA2」あってこそのフォルムと室内空間というべきだろう。
今のところ日本市場にはスタンダードシリーズとしてのEQE 350+と、高性能なメルセデスAMG EQE 53 4マチック+の2グレードが導入される。前者がリアアクスルに電動パワートレーンのeATSを積んだFRレイアウトで、後者は前後合わせてeATSを2基積んだ4WDレイアウトである。このグレード構成そのものはパフォーマンススペックを除いてEQSと同様だ。
最高出力292psで最大航続距離(WLTCモード)624kmという350+。BEVの航続距離はハナシ八掛けだとしても、満充電状態から500km弱は走る計算。東京から自宅のある京都までは一気に行けそう。とはいえ、目的地に夜間充電設備がなければ、翌日から“急速充電渡り鳥ドライブ”が待ち受けている!
巨大なハイパースクリーンこそ装備されていなかった(EQE 53にオプション設定)けれど、それでも室内の風景は十分に目新しい。
発進加速は上品だ。もちろん静かである。トルクの立ち上がりは丁寧にしつけられており、ちょっと不用意に踏み込んだとしても慌てるような加速にならない。アクセルを踏んでビュッと発進することはBEVの特徴だが、逆にいうとそれは電気モーター車なら当然で、個性でもなんでもない。出したがる力をどう制御するかが腕の見せどころというわけで、この世界でもメルセデスらしい発進加速を表現した。
ほとんどEQSと変わらない風景が広がり、実際のサイズもほとんど変わらないというのに、200kgほど軽いことが幸いしているのだろう、低速域からの加速フィールはEQS 350+に比べてはっきりと軽快で、いい意味で1クラス下の印象をもった。乗り心地に落ち着はあるものの、EQSほど重厚ではない。
それでいて、静かさに限って言えばEQS譲りと言っていいだろう。BEVなのだから静かなのは当たり前だと思われるかもしれないけれど、そうじゃない。エンジンの音がしない代わりに、いろんなノイズが入ってくる。それらも巧みに抑えられていた。それでいて思いどおりに動く印象があるのだから、やっぱりこの車は電動Eクラスである。
ワインディングロードでは重心に載っかって曲がっていくような、いかにもBEVっぽいティーカップフィールではなく、ちゃんと後輪駆動モデルらしく、アクセルワークで思いどおりに駆け抜けてくれたのが嬉しかった。それでいてリア・アクスルステアリングのおかげで少々の無理も利いてくれる。ドライバーが楽しもうと思えば、それなりに応えてくれるというわけだ。
高速道路では一転して、重心の低さを利用した安定感を見せた。実に“Eクラス”らしいクルージングである。よく転がり、よくくっついている。そのうえ、運転支援のマナーは現時点で最高レベル。すべてを任せたくなってしまうという意味では、EQSと同様、“自由な個室新幹線”のようだった。
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
ライバルとなるBMW i4とテスラ モデルSの中古車市場は?
BMW 4シリーズ グランクーペをベースに開発されたBEV。ベーシックモデル(i4 eDrive40)は最高出力340psのモーターをリアに搭載した後輪駆動。83.9kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、最大航続距離は604km(WLTPモード)となる。
2023年2月現在、中古車市場には20台程度流通しており、ベーシックモデルとハイパフォーマンスモデル(i4 M50)がおよそ半数ずつとなる。2022年に登場したばかりなので、走行距離が少ない物件が多い。
▼検索条件
BMW i4× 全国BEVの先駆者となるテスラのアッパーミドルサルーン。アメリカ本国では2012年、日本では2014年にデリバリーが始まっている。当初は後輪にモーターを配置した2WDであったが、2015年には前後に1基づつのデュアルモーターAWDをラインナップ。2021年には3基のモーターを用いたトライモーターAWDを搭載したPlaidが追加されている。また、2016年のマイナーチェンジでフロントのデザインなどを変更。ソフトウエアのアップデートはオンラインですべての車両を対象に実施されるのもポイントだ。
2023年2月上旬時点で、中古車市場には50台前後が流通しており、初期モデルなら400万円台から探すことができる。