激レアなディーゼルターボのフィアット パンダ4×4だが「並行輸入車」という点はどうなのか?【EDGE Second Line】
2022/06/29
栄えある「格安名車」を探し出せ!
こちらは6月27日発売の雑誌カーセンサーEDGE 8月号に掲載された、自動車評論家・永福ランプ(清水草一)さんの人気連載「EDGE Second Line」の、担当編集者から見た別側面である。アナログレコードで言うB面のようなものと思っていただきたい。
なお「EDGE Second Line」というのは、「車両価格が手頃=エラい! 賢い! おしゃれ! と定義したうえで、栄えある格安名車を探し出そうじゃないか」というのが、そのおおむねの企画趣旨である。
で、カーセンサーEDGE 8月号の同連載で取り上げた中古車は、2014年式のフィアット パンダ4×4 1.3MJT。日本に正規輸入されているパンダ4×4は0.9Lの2気筒ガソリンターボエンジンを搭載しているが、こちらは1.3Lの直4ディーゼルターボエンジンを搭載した並行輸入車。走行4.0万kmで、車両本体価格160.4万円という個体だ(※現在は売約済み)。
そしてこの個体に限らず「本国仕様の輸入中古車」というのは今の時代、もっと注目されて然るべきなのではないか――というのが、B面担当者の結論である。
そう結論づけた根拠について述べる前に、フィアット パンダ4×4ならびにそのディーゼルターボエンジン搭載モデルの概要を、ざっくりご説明しておこう。
フィアットとしては最小排気量のディーゼルターボエンジン
現行型のフィアット パンダ4×4は、日本では2013年6月に発売された3代目(現行型)フィアット パンダの4WDモデル。通常の現行型パンダ日本仕様はFFレイアウト+CVTだが、時おり数量限定で散発的かつ継続的に発売されているパンダ4×4は、電子制御式4WD+6MTという組み合わせ。日本仕様のエンジンは、どちらも0.9L2気筒ガソリンターボの「ツインエア」だ。
パンダ4×4のエクステリアは専用デザインの前後バンパーやアロイホイールなどで差別化されていて、ボディサイズは全長3685mm×全幅1670mm×全高1615mmと、FFの現行型パンダよりもやや大きめ。車重も1130kgということで、FFのパンダ 比で60kg増しとなっている。
現行型フィアット パンダ4×4は、2014年から2015年にかけては半年に一度ぐらいのペースで少量ずつが輸入され、やや間を置いて2018年にも夏と秋に輸入。そして直近では2022年1月に「フィアット パンダ ストリート4×4」が160台限定で発売された――というのが、正規輸入版パンダ4×4の大まかなヒストリーだ。
それに対して今回取材した並行輸入車は、マニアックな品揃えで知られる『CAR BOX横浜』が自社で輸入した2014年式の1.3L直4ディーゼルターボエンジン搭載車。
「マルチジェット」と呼ばれるこの1.3L(1248cc)直噴ディーゼルターボエンジンは、フィアットグループとしては最小排気量のディーゼルエンジンで、そのスペックは最高出力75ps/4000rpmと最大トルク19.4kg・m(190N・m)/1500rpm。
トランスミッションは、ガソリンのツインエアエンジンを搭載する日本仕様は6MTだが、こちら直噴ディーゼルターボのマルチジェットを積む本国仕様は、エンジンの特性上そこまで細かくギアを変える必要はないということで、5MTが採用されている。
並行輸入車の入庫を断る正規販売店も多い
さて、そんなディーゼルターボエンジン「マルチジェット」を搭載する欧州仕様のフィアット パンダ4×4。正規輸入車が搭載するガソリンの「ツインエア」エンジンも十分以上に力強くて楽しいエンジンではある(何やら生き物のような有機的ビート感が素晴らしいのだ)。
だが低回転域からディーゼルエンジンならではの太いトルクが発生するこちらの車両を、おそらくは20km/L以上はマークするはずの良好なる実燃費の恩恵を受けながら、あまり細かいことは気にしないでガンガン普段づかいするのが、ヨーロッパの小型車としては一番「らしい」使い方のように思える。つまりこの物件、大いに魅力的なのだ。
しかし「正規輸入車ではなく並行輸入車である」という点が、この種の「らしいコンパクトカー」の購入意欲を減退させていることは否めまい。
ディーラーによっては「並行輸入車の点検や整備もOK」というところもあるが、多くの輸入車正規販売店では、様々なトラブルや面倒を回避する目的で「並行輸入車お断り」としているケースは多い。
そうなると、正規販売店ではなく「街の外車屋さん」や「町工場」に点検と整備をお願いするしかなくなるわけだが、居住エリアによっては「ウチの県内には輸入車を触ってくれる整備業者なんてほとんど存在しないよ」という場合も多い。
そうなるともう――自分でバリバリと車の整備ができるという特殊な人を除いて――お手上げとなるわけだが、車の維持に関してお手上げになるわけにはいかないため、多くの人は「並行輸入車には手を出さない」という行動に、最終的には落ち着くわけだ。
万人向けではないが、都市部に住む「経験者」ならイケるはず
以上のとおりの「並行輸入車には手を出したくない」という考えはまったくもって正当であり、筆者も、それに対しての批判的な意見は何も持ち合わせていない。
だが大都市圏の在住者で、なおかつ「人と違う車に乗りたい」と思っている人、または「全部盛りで豪華すぎる日本仕様ではなく、なるべく素うどん的な本国仕様に乗りたい」と考える人であれば、今回ご紹介するような並行輸入車には普通に注目して然るべきだとも思っている。
今回の物件の販売店である『CAR BOX横浜』のように経験豊富な“主治医”が近くにいれば――という条件付きではあるが、そういった主治医に依頼すれば、並行輸入車の点検や整備はごく普通に行ってもらえる。そして必要な部品が国内にない場合でも、本国とのパイプがしっかりしている販売店が航空便を使えば、おおむね1週間程度で日本に届く場合が多い。
まぁモノによっては1週間では済まない場合もあるだろうが、そういったモノはたとえ正規ディーラー経由であっても、1週間では届かなかったりもするものだ。
とはいえもちろん本国仕様の並行輸入車には、近所の正規店で買うのと比べれば「めんどくさいこと」は確実に存在する。それゆえ、万人にオススメするつもりは毛頭ない。
しかし、輸入車やその中古車についての経験や耐性(?)がそれなりにある人に対しては、「並行輸入車だからというだけで検討対象から外してしまうのは、ちょっともったいなくありませんか?」とは思うのだ。
特に今回の取材車両のような、日本ではなかなか乗ることができない「小排気量ディーゼルターボのMT車」という超レアな、しかし本国ではごくごく一般的な存在を見かけるたびに、その思いは強くなってしまうのである。
自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。