いよいよ平均200万円を切った初代トヨタ MIRAIだが、「燃料電池車を買ってもOKな人」ってどんな人?
2021/09/20
中古車価格は魅力的だが、懸念点もある「燃料電池車」という選択
最近は「電気自動車(EV)にも興味津々だが、さらに一歩進んで燃料電池車(FCV)にも興味がある」という人も多いかもしれません。
燃料電池車とは、水素と酸素の化学反応で得られる電気エネルギーでモーターを駆動させる車のこと。ガソリン駆動車よりエネルギー効率が高く、排出されるのは水だけで、CO2やNOxなどは排出されないため「究極のエコカー」ともいわれています。
そんなFCVであるトヨタ MIRAIに興味がある人も多いでしょうが、MIRAIには下記2つの問題点――というか懸念点があります。
●懸念点1:いい車だが、高い。
●懸念点2:いい車だが、ガソリンスタンドに相当する「水素ステーション」の数が少ない。
懸念点2については後ほど詳しく考えてみますが、懸念点1、つまり「ぶっちゃけ高い」という点については最近、実はさほど大きな問題ではなくなってきました。
なぜならば、「初代トヨタ MIRAIの中古車平均価格はもはや200万円以下になったから」です。
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トヨタ MIRAI(初代)×全国新型登場の少し前から平均価格が下がり始め、今や約190万円に
まずは下記のグラフ1を見てください。
やや特殊な車である初代MIRAIの掲載台数は、2020年7月までは20~30台前後で地味に推移していました。しかし、同年の8月から秋にかけて約40台、約50台まで跳ねて、その後は60~80台ほどのレベルにまで増加しています。
それに加えて、2020年12月に2代目のトヨタ MIRAIが発売されたからでしょうか、初代MIRAIの平均価格は2021年2月頃から明確に下がり始めたのです。下記のグラフ2をご覧ください。
それまで「おおむね横ばいまたは微下落」という傾向だった初代MIRAIの平均価格は、新型の発売2ヵ月後ぐらいから明白な下落傾向に転じ、2021年5月には「200万円の壁」を突破。そして、直近では「平均190万円前後」といったニュアンスで推移しているのです。
新車のトヨタ MIRAIは(様々な補助金もあるとはいえ)700万円を軽く超える高額車ですし、初代MIRAIも2年ほど前までは「なんだかんだでけっこう高い中古車」ではありました。そのため、燃料電池車に興味があったとしても、気軽に買える存在ではありませんでした。
しかし、今や初代の平均価格は190万円ぐらい、つまり新型トヨタ アクアの新車(売れ筋グレードは209万円~)よりもお安い予算感で、その気になれば入手可能な状況になっているのです。
このぐらいの予算感であれば、車名どおりの「未来」を先取りする意味で、MIRAIを手に入れてみるのもけっこうステキではないでしょうか?
典型的な中古車のイメージは「走行2万km前後で総額190万円ぐらい」
では、もしも初代トヨタ MIRAIを買うとしたら、どれをどう選べばいいのか……という観点から、初代MIRAIの流通状況を見てみましょう。
まず、初代トヨタMIRAIの「現状」は下記のとおりです。
●流通台数:49台(2021年9月14日時点)
●中古車価格:総額163.9万~373万円(平均185.2万円)
●年式と流通台数、価格、走行距離の関係:
・2015年式|10台|総額174.2万~238万円|走行0.6万~9万km
・2016年式|29台|総額163.9万~259万円|走行0.6万~10.6万km
・2017年式|8台|総額190.4万~245万円|走行0.9万~6.3万km
・2018年式|0台
・2019年式|2台|総額320.3万~373万円|走行0.2万~1.4万km
2019年式は中古車としてまだまだきわめて新しく、なおかつ昼夜の歩行者や昼間の自転車運転者を検知可能とした「Toyota Safety Sense」が標準装備された世代であることから、ちょっと別格の状況となっています。
しかし、それ以外の2015~2017年式は比較的安価で、それぞれの年式と価格、走行距離の間に特に相関関係はないようです。
そして、上のとおり走行10万kmを超えている物件も確かにあるのですが、大半の初代MIRAIは低走行です。調査日現在で49台が流通している初代MIRAIを「走行距離別」に仕分けすると、おおむね下記のとおりとなります。
●走行1万km未満|8台|総額198.4万~320.3万円
●走行1万km台|12台|総額190.4万~373万円
●走行2万km台|10台|総額185.2万~259万円
●走行3万km台|7台|総額163.9万~201万円
●走行4万km台|2台|総額179.9万~180.8万円
●走行5万km台|4台|総額171.1万~185.1万円
●走行6万km超|6台|総額169万~183万円
以上のデータを基に「初代MIRAI中古車の典型的な個体」をイメージするとしたら、それはおおむね下記のとおりとなるでしょう。
2016年式トヨタ MIRAIベースモデル TSS装着車
車両価格185万円/支払総額196万円/走行1.8万km(※以上はあくまでイメージ)
ちなみに、「TSS装着車」というのは、運転支援システム「Toyota Safety Sense」が搭載されていますよ、という意味です。
「MIRAIが似合う人」は、ズバリ「遠出はあまりしない高級サルーン好き」
以上のとおり、「初代トヨタ MIRAIの中古車は総額200万円弱ぐらいで、走行2万km前後のけっこう悪くない1台が狙えることが多い」というイメージをざっくり共有したうえで、「初代MIRAIは、そもそもどんな人にオススメなのか?」という議題に移りましょう。
各種の状況をいろいろと取材し、初代MIRAIの試乗も行ったうえで言えることは、下記のとおりです。
●初代MIRAIをオススメしたい人 その1
「安定感と重厚感の強い“高級サルーン”がお好みの人」
初代MIRAIは、トヨタが威信をかけて開発した1台ですので、その走りのフィーリングやインテリアの質感などにはかなりの高級感があります。モーター駆動によるパワフルさも十分以上ですので、「大パワーの高級セダンで余裕たっぷりに走るのが好き」みたいな人にはハマるでしょう。
具体的に言うなら、メルセデス・ベンツのSクラスやレクサスのLSなどが好きな人は、たぶんMIRAIも気に入るはずです。
しかし、大きく重い車であり、足回りも快適志向ですので、「シャープで気持ちいいコーナリングが楽しめる車が好き」的な人には、あまり向いていません。
●初代MIRAIをオススメしたい人 その2
「車での遠出をあまりしない人」
大パワーと快適な足回り&快適な装備類により、本来ならロングツーリングが大いに気持ちいいはずの初代MIRAI。しかし、「水素ステーションの数がまだまだ少ないから」という意味で、残念ながら、遠出にはガス欠ならぬ「水素欠」の不安が付きまといます。
初代MIRAIの航続距離はJC08モードで約650kmと十分なのですが、初代MIRAIのオーナー複数に取材したところによれば、実際の後続距離は450kmぐらいである場合が多いとのこと。
で、450kmでも「まあまあイケる航続距離である」とは言えるのですが、問題となるのが、水素ステーションの数と場所、そして営業時間です。
ガソリンの給油所は全国で2万9637ヵ所ありますが(2020年3月31日時点。経済産業省調べ)、水素ステーションの数はわずか154ヵ所で、なおかつそれらは4大都市圏が中心です(一般社団法人 次世代自動車振興センターHPより)。
さらに、それら154ヵ所の水素ステーションは営業日や営業時間もかなり限定されている場合が多いため、「いつでも水素を充填できる」というわけではないのです。
そのため現状のトヨタ MIRAIは、「車での遠出(片道250km以上)をひんぱんに行う」という人には、正直まったく向いていません。
しかし、「自分の場合、車での遠出といってもせいぜい片道100kmから150kmぐらいの場合が大半である」という人であれば――つまり、大都市圏に住まう多くの一般的な自動車ユーザーであれば――初代MIRAIの航続距離も、特に大きな問題とはならないでしょう。
以上のとおり「なかなかステキで、最近は安価にもなってきた」という初代トヨタ MIRAIですが、同時に「(水素の充填が必要という意味で)クセの強い車」でもあるため、万人にオススメできるわけではありません。
しかし、上記のオススメ条件1と2に当てはまる人にとっては、大いに検討に値する1台であることも間違いありません。
もしも当てはまるのであれば……初代MIRAIを通じて、ぜひ“未来”を体感してみてください。
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トヨタ MIRAI(初代)×全国自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。