BMW M3▲BMWの自然吸気直列6気筒エンジン×MTで人気の高いE46型M3。ワイドトレッドを収めるためE46型クーペと比べて、全幅は+20mmの1780mmに拡幅されている

ターボ化が当たり前の時代、貴重な10~20年落ちのモデル

BMW謹製の直列6気筒の吹け上がりは、まるで絹のように滑らかだ。構造上、振動バランスに優れる直列6気筒エンジンは、かつては日本メーカーを含む他社でも採用されていたが、中でもBMWのそれは“シルキーシックス"の称号を与えられた。

一時期、前方の衝突安全基準の確保や燃費性能競争などによって、直列6気筒は絶滅しかけたが、BMWだけはかたくなに開発し続けた。そうした同社の“こだわり"も、シルキーシックス神話に深みを添えているのかもしれない。

しかし、代替わりのたびにパフォーマンスを向上しなければならない世の中の流れにおいて、さすがに自然吸気では難しいとターボ化が進んでいる。BMWの3シリーズで言えばE90型の直列6気筒から、自然吸気と並行して、ターボ化が始まった。何しろ、自然吸気の水平対向6気筒を長年載せていたポルシェ 911も、現行型カレラではついにターボが備えられる時代なのだから。

もうひとつ忘れてならないのが、BMWはMT車を数多くラインナップしてくれるメーカーでもあるということだ。滑らかな、自然吸気ならではの息継ぎのない、心地よく吹け上がるエンジン音を、自分のリズムで奏でることができるのが「シルキーシックス×MT」だった。

残念ながら、今はもう新車で味わうことができないが、中古車ならばまだ間に合う。 ということで今回は、少ないとはいえ比較的物件が見つけやすい10~20年落ちの、今のうちに味わっておきたい「シルキーシックス×MT」モデルを紹介しよう。

M3の陰に隠れた、羊の皮をかぶる「シルキーシックス×MT」
BMW 330i Mスポーツ(E46型)

BMW 330i Mスポーツ▲こちらは別グレード(318i Mスポーツ)の写真だが、330i Mスポーツの見た目もおおよそこのような感じ。全長4470mm×全幅1740mm×全高1420mmは、現行型2シリーズグランクーペよりも小さい。M社の17インチアルミホイールや、フロントスポイラー、サイド・リアスカートが備わる

自然吸気の6気筒という点では、E46型には他にも320iや323i、328iがあり、クーペにも330ciがある。しかし、MTが用意されたのはセダンの330i Mスポーツの他にない。

登場したのは、E46型のデビューから2年後の2000年7月。当時最新の3L直列6気筒(M54)を搭載し、それまであった328i(2.5L直列6気筒を搭載)に代わって、3シリーズのトップグレードに君臨した。

最高出力は231ps/5900rpm、最大トルクは300N・m/3500rpm。5速MTの他、5速ATも用意された。また、「Mスポーツ」なので、M社のスポーツサスペンションなどが装備される。なお、2003年のマイナーチェンジで、MTが6速化されている。

BMW 330i Mスポーツ▲こちらも別グレードの写真となるが、330i MスポーツのMT車は、左ハンドルのみの設定。M社のスポーツシートやステアリングホイール、カーボン調インテリアパネルなどが備わる

次に紹介するM3と比べれば、M社のスポイラーが備わるとはいえ控えめだし、見た目はフツーの3シリーズのセダン。M3の陰に隠れたレアモデルだけれど、M3よりも自分の腕が試される、まさに羊の皮をかぶった「シルキーシックス×MT」モデルと言えるだろう。

2000年8月時点の車両本体価格は555万円。ただでさえレアモデルで、販売終了からすでに16年が経つため、原稿執筆時点で見つかったのは6台のみ。価格帯は約120万~260万円で、走行距離は5万km以上10万km未満。気になる中古車を見つけたら即行動が肝心だ。

▼検索条件

BMW 3シリーズ(E46型)×330i Mスポーツ×MT×全国

自然吸気のチョクロク最後のM3をMTで駆る
BMW M3(E46型)

BMW M33▲過酷な高速コーナーでも安定してオイルを供給するシステムや、100km/hからの制動距離を35mで止めるブレーキなど、Mモデルならではの装備が備わる。ボンネットフードは軽量なアルミ製。M3専用の非球面タイプのドアミラーはオプションで用意された

2001年1月から日本に導入されたE46型M3。上記3シリーズに搭載された3L直列6気筒(M54)のハイパフォーマンス版である、3.2L直列6気筒エンジン(S54)が搭載された。このエンジンは、当時F1に参戦(BMWウィリアムズ)して得ていたノウハウが注がれた至極のエンジンだ。

最高出力343psを7900rpmという、レッドゾーンまで一気に踏み込みたくなるような高回転型。とはいえ、最大トルク365N・mの80%を2000rpmという低回転域で発揮する。これに6速MTか、6速AT(2ペダルMTのSMG-II)が組み合わされた。6速MTでは、2速で100km/hを超え、0-100km/h加速は5.2秒だ。

BMW M33▲左ハンドル/右ハンドルが選べる。冷え切ったエンジンを始動すると、メーターの4000rpm以降がオレンジに点灯。油温が上がるにつれ500rpmごとに消灯する。バックレスト幅を調整できるスポーツシート、クッション付き極太リムのステアリングが備わる

「エンジンよりも速く」を目指して開発されたサスペンションは、優れた走行性能を発揮。また、後輪のうち一方がスピンする恐れがあると、瞬時に可変Mディファレンシャルロックがトラクションをコントロールして走行を安定させてくれる。これにより、雪道など滑りやすい路面だけでなく、高速コーナーも安定して駆けぬけることができる。

なお、最高出力360ps/最大トルク370N・mに高められ、カーボンルーフなど軽量化も図られたCSL(車両本体価格1150万円)は、シーケンシャルシフト(2ペダルの6速MT)となる。

M3のデビュー時の車両本体価格は786万円。販売終了から約14年経つが、「自然吸気のチョクロク最後のM3」ということもあり、人気が高い。

原稿執筆時点で14台が見つかり、価格帯は約220万~700万円だ。走行距離は10万km超もある一方で、3万km未満も。前オーナーにより足回りが変更されている中古車も多い。どんなコンディションのM3が欲しいのか、最低限のラインを決めてから探した方がいいだろう。

▼検索条件

BMW M3(E46型)×MT×全国

M3の2シータークーペと、M3の2シーターオープンカー
BMW Z4 Mクーペ/Mロードスター(E85/E86型)

BMW Z4 Mクーペ▲BMWによれば、ニュルブルクリンク北コースにおいて、MクーペはMロードスターやM3よりもラップタイムが速かったという。一見ノーマルのZ4と同じ顔に見えるが、よく見ればキドニーグリルが奥に引っ込むように配され、ボンネットには2本の線が入る

前身のZ3に代わり2003年1月に登場したのが、2シーターオープンカーのZ4。このZ4の2006年4月のマイナーチェンジのタイミングで投入されたのが、Z4 Mロードスターと屋根のあるクーペボディのZ4 Mクーペだ。

他のZ4と異なり、上記E46型M3と同じ直列6気筒エンジンが搭載され、しかも、どちらも6速MTのみとされた。

BMW Z4 Mロードスター▲電動ルーフが備わるMロードスター。車外からでもリモコンで開閉できる。開閉にかかる時間は10秒以内としている。Mロードスターのトランクは屋根を開けた状態で220L、閉めると200L、Mクーペは300Lとなる

E46型M3と同じ直列6気筒エンジンゆえ、最高出力343ps/7900rpm最大トルク365N・m/4900rpmは同じ。ただし、Z4の方が軽量のため、0-100km/h加速はどちらも5.0秒とM3より速い。

この強力なパワーを受け止めるため、フロントサスペンションは新設計され、リアサスペンションにはM3のものが用いられた。パワーステアリングシステムも専用のものとなっている。

BMW Z4 Mロードスター▲左ハンドル/右ハンドルが選べる。写真はMロードスターのインテリア。シフトノブやステアリングホイール、スポーツシートは他のMモデル同様、専用のものが与えられている

またM3同様、雪道など滑りやすい路面や高速コーナーを安定して駆けぬけるMディファレンシャルロックが備わる他、M3 CSLと同じブレーキが採用されている。いわば、M3の2シータークーペと、2シーターオープンカー。ノーマルのZ4とは、何もかも別モデルなのだ。

デビュー時の車両本体価格はMクーペが807万円、Mロードスターが829万円。台数の少ないレアモデルゆえ、販売終了から約11年経つ原稿執筆時点ではMクーペで6台、Mロードスターで4台しかない。 価格帯はMクーペが約430万~560万円、Mロードスターが約260万~500万円(他に価格応談もあり)。こちらもE46型330i同様、欲しい中古車が見つかったら、即行動を。

▼検索条件

BMW Z4 Mクーペ/Mロードスター(E85/E86型)×MT×全国

手頃な価格で「シルキーシックス×MT」を楽しめる1台
BMW 1シリーズ 130i Mスポーツ(E87型)

BMW 130i Mスポーツ▲エントリーモデルの1シリーズながらフロント205/50R17、リア225/45R17と前後異形サイズを履く。ラゲージ容量は通常で330L、後席を倒すと1150L。Mフロントスポイラーやリアエプロンなどが備わる。エグゾーストハイプは2本出し

2004年9月に登場したBMW初のコンパクトカー・1シリーズに、2005年10月に追加されたのが130i Mスポーツだ。FRレイアウトに、上記E46型330iに搭載されたM54の、さらに進化版となる3L直列6気筒(N52)が搭載されている。

組み合わされるトランスミッションは6速MT。ちなみに、このN52エンジンは、E46の後継モデルE90にも搭載されていたが、残念ながらE90の直列6気筒モデルにMT車は設定されていない。

N52エンジンの最高出力は265ps/6600rpm。最大トルクは315N・mを2500-4000rpmと低回転域の広い範囲で発揮する。0-100km/h加速は6.1秒。

足回りが130i用に専用セッティングされたのはもちろん、駐車時のステアリング操作量を減らし、高速走行時は直進安定性を向上させるアクティブ・ステアリングが1シリーズで初めて採用された。なお、2006年4月には6速ATモデルも用意されている。

BMW 130i Mスポーツ▲日本仕様は右ハンドルのみ。前席の電動パワーシートやMレザーステアリング、カーナビなどを操作できるiDriveは標準装備

このサイズでFRというだけでも希少なのに、BMW製の自然吸気チョクロクをMTで駆れるコンパクトハッチバックは、この130i Mスポーツだけ。なお、2010年5月に1シリーズ全車の燃費改善が行われた際に、最高出力258ps/最大トルク310N・mと若干ダウンしている。

デビュー時の車両本体価格は487万円。販売終了から約10年と、上記3台と比べて新しいモデルだが、コンパクトカー=街乗り需要が高かったせいだろう、MTの130iの中古車台数は少なく、原稿執筆時点で見つかったのは7台。

ただし、走行距離がすべて7万km超ということもあり、価格帯は約70万~160万円とBMWの自然吸気チョクロク×MTの中では最も手頃。コンディションのいいうちに、お気に入りを見つけてアプローチしたい。

▼検索条件

BMW 1シリーズ(E87型)×130i Mスポーツ×MT×全国
文/ぴえいる、写真/BMW

ぴえいる

ライター

ぴえいる

『カーセンサー』編集部を経てフリーに。車関連の他、住宅系や人物・企業紹介など何でも書く雑食系ライター。現在の愛車はアウディA4オールロードクワトロと、フィアット パンダを電気自動車化した『でんきパンダ』。大学の5年生の時に「先輩ってなんとなくピエールって感じがする」と新入生に言われ、いつの間にかひらがなの『ぴえいる』に経年劣化した。