竜巻だけじゃない! 運転中はダウンバーストなどの強風にも注意
強風のリスクについて知る
車を運転するうえで風は大敵。竜巻のように建物を破壊するような風でなくとも、強い横風が吹くだけで横転の危険があります。
台風や地震のように、メディアでは頻繁に取り上げられませんが、命に危険を及ばす可能性もあります。日常的に発生する自然現象だからといって、風害は決して侮ってはいけません。
【危険な風害1】突風による交通事故
自動車は空力を考慮しているため、車両前面からの風に対しては比較的強く設計されています。しかし、面積の広いボディ側面からの風には弱く、走行に大きな影響を受けます。
一般的に風速(瞬間風速)が20m/sを超えると通常の運転が困難。35m/s以上で軽自動車やコンパクトカーが横すべりや横転、50m/s以上になると普通自動車(ワンボックス)や大型自動車も横転するといわれています。
横風による影響はスピードが速いほど、また車体側面の面積が広い車ほど大きくなります。 風に強く押されて車線を逸脱して、事故を誘発。あるいは突風に驚いて操作を誤り、スピンやスリップをする恐れもあります。
【危険な風害2】飛散物による被害
風害で多く見られるのは、飛散物による被害です。平均的な20m/s程度の風速であっても、看板や木造住宅の屋根瓦、ビニールハウスなどが飛ばされることも。
当然、人に当たれば怪我をしますし、走行中の車に衝突すれば車が傷つくだけでなく、大きな事故につながる可能性もあります。また、強風に雨、雪、雹、砂埃などが加わると、著しく視界が悪くなり走行が難しくなります。
危険な強風の種類を学ぶ
強風の種類や発生源は様々ですが、今回は特に注意したい風について解説します。竜巻や台風ほど甚大な被害をもたらすことは希ですが、気象や地形など条件によって風速が強まり、広い範囲に影響を与えることもあります。
風の種類を覚えることで、風のもたらす危険も覚えやすくなるはず。風害から身を守るためにも、危険な風の種類を覚えておいてください。
【注意したい風1】ダウンバースト
ダウンバーストは、積乱雲からの強い下降気流です。気流は地面にぶつかった後、水平方向の広い範囲に飛散し、強い風をもたらします。
ダウンバーストの風速は、たいてい20m/s前後ですが、条件によっては50m/s(「猛烈な風」以上)近くなることも。コンクリート製の電柱18本をなぎ倒した被害例もありました。
ダウンバーストは積乱雲の降水によって発生するため、多くの場合は風だけでなく強雨や降雹も伴います。発生時期は4~9月、特に夏場に集中しますが、一年を通して発生します。雪雲からも同様の現象があり、スノーバーストと呼ばれています。
風速10~15m/s未満は「やや強い風」、15~20m/s未満は「強い風」、20~30m/s未満は「非常に強い風」などと表現されます。非常に強い風となると「通常の速度で運転するのが困難」になります。気象用語と、風による被害の目安は覚えておくと良いでしょう(気象庁「風の強さ(予報用語)」)
【注意したい風2】ガストネード
ガストネードは、ダウンバーストが地上を飛散する先端の「ガストフロント」によって発生する渦のこと。ガストネードは竜巻と似ていますが、目に見える形になることは少なく、寿命も短いという特徴があります。
渦の回転速度も多くの場合は20m/s程度。それほど大きくありませんが、建物の屋根や看板などを吹き飛ばす威力があるので注意が必要です。日本でもガストネードでトラックが横転した事例があります。
【注意したい風3】つむじ風
つむじ風は、雲がない日に地上で生まれる空気の渦です。塵旋風(じんせんぷう)とも呼ばれることも。地上の空気が日光で暖められて上昇する際に、周囲の影響によって発生します。
晴れた日に唐突に吹くため、発生を予測するのは不可能。強いて言うなら、晴れて空気が乾燥した日が続いた場合に発生しやすい傾向にあります。
風速は20m/s前後で、寿命も数十秒~数分と短命。直径は数m~数十mですが、高度が数十m~数百mになることもあります。ダウンバーストやガストネードと比べて規模は小さいですが、突風による飛来物で事故を引き起こす恐れがあります。
強風に備えて運転時の危険を避ける
運転中に風害を避ける、あるいは風害による事故を起こさないためには、普段から天候に注意を払う必要があります。同時に、万が一の際に迷わず行動できるように対策しておくことが最善。常日頃から風害を意識して、運転すると良いでしょう。
【強風への対策1】積乱雲の接近を五感で察知する
最近では、スマートフォンなどでも精度の高い情報を得られるようになりました。しかし、運転中にスマートフォンを操作することはできませんし、常に情報をチェックするのも困難。少しでも早く対処するには五感を働かせて、積乱雲の接近を察知することが重要です。
かなとこ雲や乳房雲など、いつもと違う異様な形の雲が見えたら要注意。それはダウンバーストや竜巻、豪雨などのサインとなります。頑丈な建物内に入るなど避難行動をとってください。
ダウンバーストの先端であるガストフロントが上空を通過した場合には「急に辺り一面が暗くなる」「気温や湿度が低下する」「気圧が低下して耳に感じる」「草むらやアスファルトなど夕立の匂いがする」といった変化があります。天候や空気が変わったら、警戒しましょう。
また、発達した積乱雲は発雷を伴うため、数十km離れていてもカーラジオにノイズを発生させます。つまり、運転中にカーラジオをつけておくことも、積乱雲の接近を察知する有効な手段となるのです。
【強風への対策2】事前の情報収集を徹底する
運転中、目の前に竜巻が現れたり、急激な強風が吹いたりしたら避けるのは難しいのが現実。ただし、積乱雲が発達しそうな状況は、天気予報で把握できます。「大気が不安定で……」などといった情報を聞き逃さないように。注意喚起のお知らせを聞いたら、万が一に備えて予定を変更することが必要です。
【強風への対策3】危険な場所に近寄らない
同じダウンバーストに遭遇した場合でも、どこにいるかによって風の影響は大きく変わります。
周りに遮るもののない橋は、特に風の影響が強くなる場所。トンネル出口や防音壁の切れ目、山の切り通しの終点といった「急に周囲が開ける場所」も要注意です。積乱雲の接近を感じたら、そうした危険な場所を避けるようにしましょう。
【強風への対策4】落ち着いて行動する
車を運転中に大きな横風を受けると、車が風に流されるような感覚に襲われることがあります。風に対抗しようと慌ててステアリングを切ると、スピンやスリップにつながり、かえって大きな事故につながりかねません。
ステアリングはゆっくり、慎重に操作すること。スピードも徐々に落とすようにしましょう。そして、強風が収まらないようなら、無理をせず安全な場所に退避してください。
教えてくれた人
小林文明(こばやし ふみあき)。防衛大学校の地球海洋学科教授。日本風工学会理事。積乱雲および積乱雲に伴う雨や風、雷を研究している。著書には「竜巻~メカニズム・被害・身の守り方~」(成山堂書店)などがある。
CREDIT
写真: | 小林文明、Adobe Stock |
文: | 田端邦彦(ACT3) |