飼い主が知っておくべき同行避難の現状。ペットの命と健康を車で守る
<話し手:平井潤子/聞き手:田端邦彦(ACT3)>
ペット防災における避難所の現状は?
同行避難が最初に注目を集めたのは1991年に雲仙普賢岳で起きた火砕流災害。人だけでなく動物の避難をどうするか問題となり、1995年の阪神・淡路大震災でペット防災への認識が広まりました。そして、2011年の東日本大震災で多くの問題が露呈しましたが、同行避難の現状はどのようになっているのか? 平井さんに尋ねました。
東日本大震災での問題を受け、環境省は「人とペットの災害対策ガイドライン」を策定。2016年の熊本地震では実際にペットと同行避難する人が多く見られましたが、すべての避難所で同行避難できず、ペット受け入れ不可となるケースも見られました。
良くはなっているが、まだまだ課題は残っているんですね。
多くの各自治体では同行避難の支援を表明し改善に努めています。ただ、被災状況によってはペットを受け入れる余裕がなくなることも。そのため、飼い主は避難所に同行避難できない事態も想定しておかなければなりません。また、仮に避難所に同行避難できた場合でも問題は残っています。
と、仰いますと?
避難生活が長期に及ぶと、ペットに健被被害が発生するリスクが高まります。ガイドライン策定前の話ですが、阪神・淡路大震災のときには「動物保護シェルターに入ったペットの6割以上に何らかの健康被害があった」という報告もありました。
6割も……。どういった症状が多かったのですか?
下痢や嘔吐など消化器系の疾患です。飼い主と離れていることや、急激な環境変化、長期間にわたって狭い場所にいるといった、精神的なストレスが原因だったのではないでしょうか。その対策としては、犬の場合なら定期的にケージの外に出し、散歩すること。猫の場合は広めのケージを用意して、運動させてあげましょう。飼い主がこまめに会いにいくことも大切です
緊急避難用にコンパクトなキャリーバッグを、避難所での滞在用に大きめのソフトケージを準備するのが良さそうですね。
さらに、避難者の都合に対する考慮も課題です。避難所生活が長引くと、自宅に物を取りに行ったり、がれきを片付けに行ったりと用事が必ず生じてきます。飼い主がペットとずっと一緒にいられるのは不可能なのです。避難所はひとまずの安全確保には有効ですが、盲信するのは危険です。
同行避難するための対策とは?
災害時においても、ペットの命を守るのが飼い主の責任。そのためには同行避難の準備だけでなく、避難生活への理解を深めておくことも欠かせません。そこで、避難所での問題を解決にはどうしたら良いかを、平井さんに教えてもらいました。
避難所にペットと同行避難する際には、どのような対策が必要ですか?
日頃からペットをしつけたり、避難訓練をしたり、防災グッズを用意したりするのは大前提。それに加えて、避難所での飼育環境を自らで改善するよう努めましょう。飼育環境は避難所ごとに様々で、動物に詳しくない管理運営者が担当することも十分にあり得るのです。
飼い主から、ペットの飼育環境に対して提案すべきだと?
仰るとおりです。例えば、複数のペットを1ヵ所で飼育していた避難所で「子どもが勝手にケージを開けてしまい、ペットが逃げ出した」という事例が報告されています。そういったトラブルを防ぐため、飼い主以外が飼育所を通らずに済む動線を管理運営者に設計してもらうなど、積極的に行動する必要があります。
避難所には動物が苦手な人や、アレルギーがある人もいますから、そうした人への配慮も重要ですね。
私が訪れた避難所では、服に付いたペットの毛を毎回、ガムテープできれいに取っている飼い主さんもいました。被災時で誰もが平常心を保ちにくいときこそ、そうした細やかな配慮を心がけたいところです。
飼育環境の改善が難しい避難所では、どうしたら良いでしょうか?
ペットが健康かつ安全に過ごせないなら、他の避難方法を検討すべきです。ペットが大切とはいえ、避難所では人命が最優先。「ペットを自宅に戻して避難所から世話に通う」「ペットの預け先を探す」といった方法を模索しましょう。
親戚や知人、近隣の人などに「万が一の際はペットを預かってもらえないか」と相談しておくと良いかもしれません。
かかりつけの動物病院に、災害時のことを相談しておくのもひとつの手です。熊本地震のときは、被害が小さかった動物病院が多くのペットを受け入れていました。ワクチン接種や定期検診の際に、災害時に預けられるか確認しておくとスムーズです。
最近ではコロナ禍によって「分散避難」が注目されています。そういった面でも、時代に即した対策と言えます。
避難所でなく在宅避難を選ぶにしろ、全くリスクのない避難方法はありません。その時々で最も安全と思われる方法を選択し、飼い主自身がペットの命を守る行動を取るよう心がけてください。
車中避難はペットとの同行避難に有効?
ペットの安全と健康を守るには、避難の選択肢を多くもつことがポイント。そのひとつとして、昨今では車中避難に脚光を浴び始めています。しかし、その実用性は? ペット防災において車中避難を選ぶメリットとデメリットを、平井さんにお聞きしました。
分散避難でいえば、車中避難への注目度が高まっていますね。
熊本地震では車中避難する人が多く、有効な分散避難先であることが知られました。エコノミークラス症候群などのリスクはありますが、こまめに体を動かすなど十分に対策を行えば、ペット防災においても多くのメリットがある避難方法だと思います。
台風など「水かさが増す数日間は危険だが、それ以降は自宅で安全に過ごせる」という状況なら、ペットともに高台など水害リスクの低い場所へ移動し続けられるのも利点。近年、頻発している豪雨災害でも、数日間の避難で済むなら車中避難を選ぶのはアリでしょう。
大規模な災害の場合でも、ペットの預け先が見つかるまでの一時避難として活用できます。災害用備蓄品の保管場所としても車は便利。特に、同行避難では荷物が多くなるので、選択肢のひとつとして検討すべき価値があると思います。
そうなると、気になるのは車中避難のリスク。人間のリスクはエコノミークラス症候群が挙げられますが、ペットではどのような危険が想定されますか?
犬猫問わず事例として報告されているのは「脱走防止のリードを付けたままペットを車内に残し、リードが首に絡まった」というトラブルです。ペットだけを車内に残すのは非常に危険です。
車内への放置は熱中症のリスクも伴いますね。
そもそも、犬や猫などのペットは温度変化に敏感。車中避難には、徹底した温度管理が必要です。車内は極端に温度が高くなったり低くなったりするので、エアコンなどでこまめに調整すること。体感だと分かりにくいので、イタズラしないように対策したうえでペットのそばに温度計を置いて細心の注意を払いましょう。
そうしたリスクに対処できれば、車中避難は有効かもしれません。ちなみに、ペットとの同行避難には、どのような車が向いているでしょうか?
人と同じく、荷室がフルフラットになるなど、車内で快適に過ごせる機能を備えた車種が良いでしょう。極端な話、キャンピングカーなら、自宅に近い環境で人もペットも安心して過ごせます。
人と同じなのであればセダンであっても、クッションなどでシートの隙間を埋めるといった工夫で数日間は避難できそうですね。
できると思います。私も猫を飼っていますが、いざというときに備えてステーションワゴンを選択しました。猫用トイレを入れられる大きめのケージも用意しています。日頃から十分に準備していれば、1週間程度ならペットと車中避難できます。通常の防災と同様、災害が起きる前に準備を積み重ねることがペット防災でも大切です。
■参考サイト・記事
LEONIMAL『「いっしょに逃げてもいいのかな?展」をWEBで体験しよう。』(外部)
災害時に車中泊で避難するコツ。必要な物やリスクを回避する方法も解説
話し手
平井潤子(ひらい じゅんこ)。公益社団法人「東京都獣医師会」事務局長。NPO法人「ANICE(アナイス)」代表。環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」の編集や、動物防災対策に係るアドバイザーとして国と自治体の広域支援訓練などに従事している。東京都獣医師会発行の「ペット防災BOOK」も執筆した
CREDIT
写真: | 平井潤子、編集部、Adobe Stock |
文: | 田端邦彦(ACT3) |
東日本大震災で多くのペットたちが自宅に取り残されたり、避難所でトラブルが起きたりしました。その後、問題点は解決されたのでしょうか?