▲走行距離短めのフルノーマル車は車両価格1000万円超が当たり前になってしまったポルシェ911(タイプ964)のカレラ2。これから買いたいと思う非富裕層は何をどう選ぶべきか、考えてみます ▲走行距離短めのフルノーマル車は車両価格1000万円超が当たり前になってしまったポルシェ911(タイプ964)のカレラ2。これから買いたいと思う非富裕層は何をどう選ぶべきか、考えてみます

タイプ964の相場は仮に世界的経済危機が発生しても下がらず?

昨年4月、筆者は当欄にて「相場高騰がまったく止まらない空冷911(特にタイプ964)、買うべきか買わざるべきか?」と題する記事を書いた。おかげさまで10ヵ月が経過した今も結構読まれているようだが、実際の空冷911相場はその後どうなったか? 記事中で「近い将来、タイプ964の平均価格が『カレラ2でも1000万円』の世界になったとしても驚かない」と書いたが、事実はほぼそのとおりになってしまった。

いやこの言い方には若干誇張があり、タイプ964全体の平均価格は記事執筆時点で、まだ949.9万円である。しかし走行3万km台までの、要するに「博物館級のカレラ2」に絞った平均価格は、同日現在で1146万円に達してしまったのだ。つい数年前までは博物館級の964でも600万円出せば買えたと記憶しているが、今や完全にフェラーリ F355と似たような価格水準になってしまったのだ。いやはや。

▲写真は手前からポルシェ 911(タイプ964)のクーペ、タルガ、カブリオレ。それらの低走行・フルノーマル物件はここ3年ほど高騰が続き、下落する気配をまったく見せない状況だ ▲写真は手前からポルシェ 911(タイプ964)のクーペ、タルガ、カブリオレ。それらの低走行・フルノーマル物件はここ3年ほど高騰が続き、下落する気配をまったく見せない状況だ

だがご承知のように世界は今、IS(Islamic State)を中心とする卑劣なテロリズムや中国経済の急減速、未曽有の原油安、北朝鮮の水爆問題、欧州にくすぶる様々な火種等々、挙げていけば切りがない諸問題で揺れている。揺れているだけならまだしも、何らかのきっかけで「クラッシュ」が起きないとも限らない。

で、もしもクラッシュが起きた場合は各々の「生存」「逃亡」「損切り(利確)」こそが第一優先となるため、中古ポルシェ云々は完全に吹き飛び、その結果としてタイプ964の相場もグッと下がるのではないか……と、最近の筆者はにらんでいた。もちろんクラッシュやクライシスが起きてほしいとは思わないが、それが起きてしまった場合にはタイプ964の相場もさすがに下がるのではと考えたわけだ。

しかし様々な取材の結果、「それもないな……」ということを確信した。つまり、あくまで筆者の勝手な推測ではあるが、「964型ポルシェ 911の相場は未来永劫下がらないだろう」という確信だ。

なぜか? それは964型ポルシェ 911という車(の低走行フルオリジナル良質物件)が、様々な意味であまりにも魅力的だからである。

▲最終年式でも20年落ち以上となるタイプ964。それでも、いや、だからこそ、世界中の人々を今も魅了する ▲最終年式でも20年落ち以上となるタイプ964。それでも、いや、だからこそ、世界中の人々を今も魅了する

過日、筆者は某専門店に実走2万数千kmのカレラ2を見に行った。フルオリジナルで、多数の整備記録簿が残る、おそらくは富裕層が所有していたはずの美車である。価格は約1300万円。

まずは自動車愛好家の視点でそれを見てみた。……死ぬほど欲しいと思った。性能だけで考えれば最新世代の911とは比べるべくもないわけだが、このたたずまいとオーラ、質感、そして「新車ではもう二度と手に入らない」という事実が、その新車に極めて近いビジュアルの中古車を、圧倒的なまでに魅力的にしていた。こちとらカネはないため見るだけで買いはしなかったが、もしも筆者が純金融資産5億円以上を保有する超富裕層であったなら、その場で「あら、お安いわね!」という感じで契約書に判を押しただろう。

次に、自動車愛好家ではなく「投資あるいは投機目的の人」という視点でそれを見てみた。……それでもやはり、死ぬほど欲しいと思った。カイを入れるには若干タイミング的に遅いが、それでもまだまだ値上がりは期待できる。なにせ世界中に「欲しい!」と思う人が多数いて、しかし買うに値する個体の数は年々減っていくのだから、普通に考えて値上がりしていくのが道理なのである。60年代のクラシックフェラーリのように数十億円、数百億円までいくかどうかは不明だが、10年後までこのコンディションを保っておけば5000万円は下るまい。となれば、1300万円に維持費+αを考慮しても利回りはザクッと計算して約300%超にはなるだろう。……おいしすぎる投資である。

以上のように愛好家として見ても、そして投機目線で見ても、大いに魅力的なタイプ964の良質物件。唯一の懸念は経済危機の勃発によって相場がダダ下がりし、超絶高値の上ヒゲつかみになるという笑えない事態だ。で、未来のことはわからないが、現在の世界情勢を見るにつけ「今後どこかの国を発端に大規模なクラッシュが起きないとも限らない」というのは、筆者のみならず多くの人が思っているところだろう。

今後もしもそういった危機が起きたとしたら? ……しかし取材の結果、それでも(たぶん)下がらないだろうと確信するに至ったのだ。

▲ちなみに写真は通常のカレラ2ではなくカレラRS3.8。とでもじゃないが1000万円では買えない中古車だ ▲ちなみに写真は通常のカレラ2ではなくカレラRS3.8。とでもじゃないが1000万円では買えない中古車だ

なぜかといえば、今や(良質な)空冷ポルシェ 911の売買というのはその国の中だけで行われるものではなく、ワールドワイドに行われているからだ。例えば都内のポルシェ専門店は目黒区のお客さんとかだけに売っているわけではなく、あるときはドイツに売り、あるときは中国に売り、またあるときは中東に売っている。日本の販売店も「国富の流出はできれば避けたい……」と思っているようだが、それでも注文されれば売らざるを得ない、いや売りたくなるのが商人である。それは当然のことだ。

と、そんな形で商売を続ける中、例えばだが日本経済がダメになり、ついでにドイツも中国もクラッシュするような何らかの事態が起きたとする。そうすると、現在高値となっている空冷911の買い手がいなくなり、その結果として相場はダダ下がりするのだろうか?

そんなこともないのである。お金持ちというのはどこにだっているもので、仮に日・中・独が壊滅したところで、彼らはブラジルに移住しているのかもしれない。あるいはどこかの新興国で何らかの斬新すぎるスキームが発明されて超絶富裕層が大量発生し、その人らが空冷911の良質物件を買いあさるのかもしれない。

もちろんすべてが仮定の話だが、確実なのは「お金持ち」はいつだって世界のどこかにはいて、そして良質な空冷911の魅力は永久に不滅だということだ。それゆえ、何が起こったところで相場は下がらないのである。一瞬下がることもあるだろうが、その後チャートはまたムクムクと頭をもたげるのである。

「いやいや、世界全面核戦争が起きたらさすがに相場は下がるでしょ?」という人もいるかもしれない。確かにそうだろう。しかしそれは空冷911相場の終わりではなく「人類の終わり」である。

ということで、良質なフルノーマル空冷911の相場は未来永劫下がらないと筆者は予想する。わたしを含む非富裕層は、もはやあきらめるしかないのだ。悲しいが、それが現実である。

▲低走行・フルノーマルなタイプ964をこれから買うのは、非富裕層にはハッキリ言って至難の業 ▲低走行・フルノーマルなタイプ964をこれから買うのは、非富裕層にはハッキリ言って至難の業

しかし「完全にあきらめる」というのもまた間違いだ。

ここまで筆者は繰り返し「良質なタイプ964は」と注釈付きで書いてきた。低走行・フルノーマルなタイプ964についての話なのだ。しかし若干微妙な個体、つまりやや走行距離が飛んでいて、完全なノーマル状態ではなく、もしかしたら軽微な修復歴もあるような個体であれば、そこまでの高値にはならないはずだ。現在は良質物件の値上がりのドサクサでそちらの相場もかなり上昇しているが、何らかのタイミングでそれら物件の相場が下がったならば、間違いなくカイ推奨である。

「そんな空冷911でも楽しめるの?」という疑問はあるだろう。それについては、過去実際に「軽微な修復歴がフロントにある、走行10万km超のカレラ2」に乗っていた者として断言したい。

「ちゃんと整備されてる個体ならば大丈夫、絶対楽しめますよ!」と。

text/伊達軍曹