※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲エンツォ・フェラーリ最愛の息子の名を冠したディーノ 206GTは67年に発売を開始。V6、2Lとフェラーリとしては小排気量のエンジンを搭載した206GTは、246GTへその座を譲るまでわずか150台ほどしか生産されなかった。ピニンファリーナがデザインした美しいボディは、いまもなお史上最高のフェラーリと称賛する人も少なくない。206GTは246GTに比べホイールベース、全長ともに短く、よりコンパクトな印象。搭載される65度V6 DOHCエンジンは180psのパワーを発揮する。わずか900kgという車重に、ミッドシップというレイアウトは、当時のロードゴーイングカーの常識を覆す素晴らしいハンドリングを実現した エンツォ・フェラーリ最愛の息子の名を冠したディーノ 206GTは67年に発売を開始。V6、2Lとフェラーリとしては小排気量のエンジンを搭載した206GTは、246GTへその座を譲るまでわずか150台ほどしか生産されなかった。ピニンファリーナがデザインした美しいボディは、いまもなお史上最高のフェラーリと称賛する人も少なくない。206GTは246GTに比べホイールベース、全長ともに短く、よりコンパクトな印象。搭載される65度V6 DOHCエンジンは180psのパワーを発揮する。わずか900kgという車重に、ミッドシップというレイアウトは、当時のロードゴーイングカーの常識を覆す素晴らしいハンドリングを実現した

卓越した運動性能が最大の特徴のディーノ206

徳大寺 今日はディーノだね。あれはとにかくカッコイイ。当時は12気筒以外はフェラーリとは呼ばなかった。だから“ディーノ”なんだ。ディーノとはエンジンの名前だからな。
松本 巨匠は当時乗っていらっしゃるんですよね。206ですか?
徳大寺 いや、246だった。206は日本にはほとんど輸入されていなかったんだ。すばらしく運動性能がよくて楽しい車だった。しかも日本には丁度いいサイズなんだ。当時は国産車なんてひどいモノだったから、ディーノと比べるといったらポルシェ 911Sぐらいだったよ。
松本 206だったらもっとタイトな運動性能に卓越さが見いだせたかもしれないですね。206は246よりもホイールベースが60㎜短くて、しかも鋼板と鋼管で作り上げたフレームにアルミのパネルをまとったボディですから。
徳大寺 当時はV型6気筒すらめったになかったんだ。しかもディーノはフェラーリー直系のモデルであることはまぎれもない事実だから、なおさらこのスモールフェラーリが魅力的だったんだよ。
松本 ところでディーノは206と246とではエンジンも違いますよね。206はフォーミュラ譲りのバンク角65度にオールアルミブロックです。これはエンツォ・フェラーリの亡くなったご子息(アルフレディノ)が構想して作ったエンジンで、設計は50年代の初頭にフェラーリに輝かしい実績を残したランプレディなんですよ。
徳大寺 ランプレディと言えば後にフィアットのエンジンを設計してアバルトを取り仕切った人物だ。ランプレディのユニットはつい最近まで使われていたのだからすごい。
鞍 和彦(キャステルオートサービス代表。以下 鞍) 前回のミウラに続き、今回はディーノ 206です。もちろんこれもうちが一から仕上げた車ですが、バンパーもアルミ製で、アルミを叩いて溶接しながら作った一品モノです。エンジンからすべて忠実にレストアしました。
徳大寺 キレイに仕上がっていますね。素晴らしいコンディションなのが一目瞭然だよ。こういう車は価格が高い方を買った方が良い。値段が高いのにはちゃんと訳があるんだよ。
 そうですね。ちゃんとしたレストアにはどうしてもお金がかかる。だから納得した人が買ってくれればそれで良いと思っているんです。
徳大寺 久しぶりに実物のディーノ 206を見たが、やはりいいな。特にホイールアーチとフェンダーの形が特徴的なんだ。ボリュームがあってしかもシャープな感じだろう。
松本 ディーノはセルジオ・ピニンファリーナのデザインと言われていますが、フロントからリアにかけての緩やかなラインと、サイドの空気取り入れ口の形状からピニンファリーナ社のアルド・ブレバローネのデザインではないかと思います。当時のピニンファリーナ社のワンオフのフェラーリやアルファロメオにも同様な造形のモデルがありますよね。
徳大寺 246に使用していた鋳鉄製のエンジンブロックの音もV型6気筒にしてはいい音だったが、こうして実際に206の音を間近で聞くと246より少し甲高い感じがするな。
 オリジナルとまったく同様の形状でステンレスのマフラーもうちで作ったんです。出口が細いでしょ。これも違いのひとつ。確かにアルミブロックの方が音は甲高いですよ。それに実は206よりも246の方がずいぶん乗りやすいという特徴もあります。
松本 206にしても246にしても、ポルシェから特許を買って自社で作ったポルシェタイプシンクロのギアが、強力に同調をとってセレクトできることも忘れてはいけません。
徳大寺 ハンドリングがめちゃくちゃいいんだ。ミッドシップは伊達じゃない。
松本 それはフェラーリとして当時は唯一のラック&ピニオンのステアリングギアボックスですから、正確無比なハンドリングには不可欠な形式ですよね。サスペンションは前後ダブルウィッシュボーンにコイル式のスプリング。ダンパーは当時泣く子も黙る〝コニ〟を使っていました。
徳大寺 当時標準でコニのダンパーはすごいことだった。しかもこれで時速200㎞のスピードを出しても何ともない。ディーノはホントに良い車なんだ。いま運転しても楽しいに違いない。ボディが大きくなくても良い車は作れるんだよ。これはまさにそれの究極のお手本。こういう車を大事にすることが大切だと思うな。

フェラーリ ディーノ206GT フロント
フェラーリ ディーノ206GT エンジン
フェラーリ ディーノ206GT 運転席周り
フェラーリ ディーノ206GT サイド
フェラーリ ディーノ206GT リア

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:4200×1700×1115(mm)
■車両重量:900kg
■ホイールベース:2280mm
■エンジン:V型6気筒DOHC
■総排気量:1987cc
■最高出力:180ps/8000rpm
■最大トルク:19.0kgm/6500rpm

【キャステルオートサービス】
■所在地:神奈川県横浜市中区翁町2-8-6
■営業時間:09:00~18:00
■定休日:日曜・祭日
■tel:045-663-4660

text/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2009年5月号(2009年5月10日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています