▲過日筆者が取材した1990年式メルセデス・ベンツ 420SELのインパネ周辺。今見ると非常にシブい ▲過日筆者が取材した1990年式メルセデス・ベンツ 420SELのインパネ周辺。今見ると非常にシブい

時代背景が変わると物事はまったく違う形に見えてくる

世の中には「最初の全盛期」のようなものを過ぎてしばらくの後、再びリバイバルヒットする物や人などが結構な数存在する。例えば人物でいうと、超売れっ子コピーライターとして90年代を席巻した糸井重里氏は今、当時とはまったく違うニュアンスの巨匠(ほぼ日刊イトイ新聞主宰)として大活躍している。またお笑いコンビ「猿岩石」のメンバーだった有吉弘行氏は、往時とは別人のごとき毒舌キャラとして再ブレイクを果たしたのはご承知のとおりだ。

糸井氏と有吉氏の例に見られるだけでなく、たいていのリバイバルや再ブレイクには、初期の頃とはまた別の魅力が付帯しているのが一般的である。

人気テレビ番組でも紹介されていた話だが、アーネストという会社が製造販売する刃が9枚あるハサミは、当初「きざみのりを作る」というコンセプトで発売されたが、まったく芽が出ず。そこで商品はそのままに「秘密を守りきります!」というキャッチフレーズで「携帯するシュレッダー」として売り出したところ、スマッシュヒットに至った。

このようにそこかしこに存在する「リバイバル」「再ブレイク」なわけだが、もちろんどんな物や人であっても簡単にリバイバルヒットするわけではない。世の中には一発屋といわれる人や物の方が多いことからもわかるとおり、その商品や人物に「ヒットに至るだけの地力(歳月の経過に耐える本質的な力)」があって初めて、リバイバルヒットという現象は起こるのだろう。

輸入車の世界でいうと今、メルセデス・ベンツ Sクラス W126型(1979年から1991年まで販売された4代前)とBMW 3シリーズ E30型(1982年から1994年まで販売された2代目)が静かなるリバイバルヒットを遂げている。

▲80年代から90年代初頭にかけてのメルセデスのフラッグシップであったSクラス W126型 ▲80年代から90年代初頭にかけてのメルセデスのフラッグシップであったSクラス W126型
▲こちらは80年代末のバブル期に「六本木のカローラ」とも呼ばれたBMW 3シリーズ E30型 ▲こちらは80年代末のバブル期に「六本木のカローラ」とも呼ばれたBMW 3シリーズ E30型

前者はバブル期、ごく一部のオーナーがすべての窓をフィルムで黒くするなどしたうえで傍若無人な振る舞いをしたことで、悪印象を抱いた人も少なくはないだろう。後者は同じくバブル期に「六本木のカローラ」というありがたくない俗称を与えられ、なんとなく軽輩的な扱いを受けた。そしてその後は両モデルとも手荒く扱われた個体が増え、いつしか市場のメインストリームからは消えていった。

しかし当然一部には、それらモデルを大切に、妙な改造をすることなく維持し続けたオーナーもいる。そういったオーナーらが諸事情により手放したノーマル系のSクラス W126型および3シリーズ E30型が今、地味に人気を集めているのだ。例えば写真下は、筆者が過日「アルデアルオート」という東京都あきる野市の中古車販売店で巡りあった実走行7.5万kmの1990年式メルセデス・ベンツ 420SEL。

▲ワンオーナー車ではないが、かなり大切に扱われてきたと推測できる個体。車両本体価格は88万円 ▲ワンオーナー車ではないが、かなり大切に扱われてきたと推測できる個体。車両本体価格は88万円

販売店いわく直近のオーナーは80代の男性で、年齢の問題で遺憾ながら手放したのだそうだ。筆者が試乗してみた限りではコンディションはかなり良好。何より整備の行き届いたフルノーマル車ゆえに、バブル期に感じたSクラス W126型の雰囲気、率直に言ってしまえば「オラオラ系」とも呼べるあの雰囲気とはまったく別の、ノーブル極まりないムードを放射している事実に驚いた。そうか、余計な先入観抜きで眺めるW126とは、こういった車だったのか。

そんなステキな個体だけに問い合わせ数はなかりの数に上り、先日は九州の某県からわざわざ見に来た人もいたという……なんて話を販売店の人としているうちにまた、北関東の某県から見に来た人が! いやはや、なかなかの人気である。

筆者個人の印象と記憶に基づく話ではあるが、一時はカーセンサーnetに掲載されるW126はかなり数が少ないか、もしくは微妙な改造が施されてしまっている場合が多かった。しかしここ最近は、筆者があきる野市で試乗した物件と似たニュアンスの個体が増えてきているように思える。また掲載台数も、筆者の記憶によれば7~8年前よりも逆に増えているのではないだろうか。時代が完全にひと回りしたことで、W126という車にバブル期とはまた別の魅力が見いだされた……ということなのだろう。

「六本木のカローラ」と揶揄されたBMW 3シリーズ E30型も、W126とほぼ似たような運命をたどっている。揶揄され、荒れた物件が増え、個体数も激減した。しかし一部に残ったノーマル系の物件に対して「このシンプルで上品でコンパクトな感じ、今逆に新しくない?」ということで再評価されはじめたのだ。これまた筆者の記憶に基づく話だが、一時に比べるとカーセンサーnet掲載台数も復活してきたように思える。

▲JAIA(日本自動車輸入組合)主催の試乗会で特別展示されていたE30セダンのフルノーマル車 ▲JAIA(日本自動車輸入組合)主催の試乗会で特別展示されていたE30セダンのフルノーマル車

もちろん、すべての往年の輸入車がW126やE30のようなリバイバルを遂げるわけではない。昔はそこそこ人気があったものの、現在では「あの人は今?」的な存在と化し、「カーセンサーnet掲載台数ゼロ」というモデルもなくはない。というか、どちらかといえばそちらの方が多いはずだ。

しかし、残るものは残るのだ。そしてなぜそれが残るのかといえば、まず第一に「その車に何か本質的な魅力があり、そして多くの人がそれを愛した」ということなのだろう。そして同時に歳月の経過により時代背景も何もかもが変化したことで、当時とはまったく違う車に見えるようになり、その結果として再び“発見”されたのだ。「なんだ、W126とかE30って実は普通にステキじゃないか!」と。実際、すべてが肥大化し複雑化した2015年の日本で乗るW126またはE30とは、コンパクトかつシンプルで可憐な、素晴らしい存在である。

ということで、年式的に古いゆえ「ナイスな物件と巡りあうことができれば」という条件付きではあるが、今回のわたくしからのオススメはずばり「メルセデス・ベンツ Sクラス W126型とBMW 3シリーズ E30型」だ。

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  • Car:メルセデス・ベンツ Sクラス W126型&BMW 3シリーズ E30型
  • Conditions:修復歴なし
text/伊達軍曹